空中ブランコ

"溺れている人間は、自分を救えない"

空中ブランコ (文春文庫)

著・奥田英朗

前作イン・ザ・プールに続く精神科医・伊良部一郎の診療(?)小説その2。
被害妄想なサーカス団員、先端恐怖症のヤクザ、キャッチボールができない野球選手などなど、、
悩みを抱えた患者達が、伊良部一郎と出会い騒動に巻き込まれて行く。

前作より実際的で、身近かな印象を受けた。
特にサーカス団のお話。タイトルにもなっているが、主人公の山下公平はサーカス団のリーダーとして長年演じてきており、技術もピカイチ。
演目の中の一つの花である空中ブランコも長くやってきたが、失敗が続くようになってしまった。
スランプに陥った現状を捉え、原因はキャッチャー相手にあると考えだし、あれこれと疑心暗鬼に陥って行く。

普段生活している中で、山下公平の話は決して特別なことではなく、身近な話だと感じる。
何か不都合があったとき、その原因を他人にあると疑う感情は、誰でも一度は持った事があるだろうし、そんなことはしょっちゅうだという人もいるだろう。
もちろん他の人が原因である事はある。
しかし話の問題はそこではなくて、思い込みにある。
自分は絶対悪くない、悪いのはあいつに決まっている。
そう思い込んでしまう事で、周りが見えなくなるし、独り相撲を演じてしまう事になる。
これは自分の世界の中でしか考えていないといえるし、閉じた視点だと言えるのではないか。
そうすると、大事なのはもっと開けてみる視点だと思う。
もっと客観的に、他人の意見を取り入れるべきであり、そしてそこで大切になるのはコミュニケーションなのだと。
閉じた視点になってしまうことは、自分自身結構ある。
というか思い込み気質なところがあって、公平の話も決して他人事ではない。。
そして、社会に目を向けても、そうゆう話はあっちこっちである。ニュースを見ていても。
もっと柔らかく、開いた視点を持とうぜと奥田さんは言っているのかなと、この話を読んで感じた。

ということで伊良部一郎シリーズその2。その1を読んでも読まなくても読める内容なので、おすすめ!

おすすめ度:80点

3冊目も文庫本で出ているようなので、今度読んでみよう。

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