AX アックス

「父がこの世で一番怖いのは」
「何ですか」
「母ですから」


AX アックス / 著・伊坂幸太郎

一流の殺し屋”兜”が、世界で一番恐れるもの、それは、妻。
仕事が終わり夜遅くに帰るとき、玄関の鍵を開けるのは慎重に。解錠の音で妻が起きてしまわぬように…そう心配するほどの恐妻家である彼は、表向きは文房具メーカーの営業マン、裏の顔は業界では有名な殺し屋。という設定。

このチグハグな設定で物語がどう進行していくのだろうか。
主人公である兜の淡々とした人物像が、次第に人間らしさを取り戻していく流れと、それが許されない環境の中で、彼と彼の家族がどうなっていくか。
最小はその奇妙な設定を面白がっていたものの、中盤までに徐々に単調とすら感じてしまったのだが、後半からなるほどそう来るかー、という感じで読み応えが戻ってくる。

コロナ騒動でライフスタイルが一変し、家にいる時間が長くなった。
長らく小説らしいものを読むことも途絶えていたので、これを機にちょっとリハビリがてら伊坂作品から手を付けてみたのが本作。
視点と時系列を交差させて伏線を回収していく様は、久しぶりだ。

ところで、本作で主人公が拘るものに、”フェア”がある。
強い力を持っている者が弱い者をいたぶる、だとか、相手の"自分では変えようものないもの"に対して攻撃する、だとか、あるいは自分がやったときはいいけど相手がやったときは駄目、そういったアンフェアな状況を嫌う。
息子への教えも、努力を怠るな、とか失敗を恐れるな、とかではなく、「できるだけフェアでいろ」というもので一貫している。
それ故に、自身の死生観についてもそのポリシーは貫いているのだが、それはここでは置いておいて、この”フェア"さというのは頭の隅に置いておきたい心がけだ。
スポーツマンシップにも似ているかもしれない。いや、ちょっと違うか。

相手と対等な立場に立つこと、それは相手のことを考えた行動をとること。
根っこにあるのは倫理観だろう。
最近読んだ別の本でも、倫理というキーワードが出てくる。
ポストキャピタリズムという側面であっても技術革新という側面であっても、倫理観が問われる場面は多くあるし、政治的にはそこから目をそらしているから今の状況が生まれているのだとも言える。そこで楽観的か悲観的かでそれぞれの主張は変わってくるのだけど、もっと手前のところで、人間は弱くてずるいから、相手より優位に立ちたい、という態度に出る人が多い。そうしたミクロな動きとマクロな動きは分けて考えないといけないのだけど、どうしたってミクロな動きに疲れてモチベーションが落ちるってのが多い。
そこで意志が重要になってくるのだけど。

と横道にそれつつ、AXのオチは時間とともに再発見されること、あるいはバトンをつなぐこと、そうしたある種の"意地"だったり"希望"だったり"一矢" 的な描写が印象的で、(勝手に)メタファーを感じたりする。

さて、今日も緊急事態宣言下のStay homeを楽しもう(白目)

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