社会はなぜ左と右にわかれるのか


"ロドニー•キングが言ったように、誰もが、ここでしばらく生きていかなければならないのだから、やってみようではないか。"


社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学

著:ジョナサン・ハイト
翻訳:高橋 洋

さて、GWが終わろうとしている。
思えば発熱に始まり治ったものの妻もインフルエンザにやられ、予定していた福岡行き(法事だけども)もキャンセル、結局のところ遠出する事も無かった。
湘南というオープンな土地に移り住み迎えた初の大型連休が、何の因果か読書に映画にと実にインドアな日々を過ごした事の持つ意味は、そもそも海岸で風にあたっていたら風邪を発症したことに対する、細胞レベルにおけるオープンな土地へのクローズドな反抗行動に他ならない。
そんな反抗どこ吹く風よあざ笑うように、今夜も遠くでバイク集団の音が鳴り響く。湘南の夏はこれからだ。

沈殿した暗い気持ちを書きなぐろうかと思いきや、久しぶりのまとまった時間だったので案外楽しんだことにはたと気付いた。
この休みで映画は6本位みた。特に僕と妻の映画趣向は合わなく家で一緒に映画を見る事なんてほぼ皆無に等しいのだけど、内3本は一緒に観ているのだから奇跡的ですらある。映画については別の記事で書くかもしれないしそのまま書かないかもしれない。

それは置いておいて、いつ買ったかすら忘れた位、本棚に長く置かれていた本を読み終えた。
分厚く場所を取っていた本なのでまとまった時間がないと読めないなぁと思いながら放置されていたのだけど、このGW、ようやく重い腰をあげて本書を読んだ。
もっと早く読んどきゃ良かった!

どんな本かと言いますと。
著者は道徳心理学を研究し、その原理から 1.観念のイメージを示し  2.氏の提言する「道徳基盤理論」なる正義心の基本要素を示し 3.人は集団を思考するという出発点から、道徳マトリックスの作用と道徳の長所•短所を示す。

人を個単体ではなく集団思考を持つ有機体として理解しようとする本書で語られる道徳心理学は、過去にあった著名人の研究結果や実験から集められたデータを基にした実証的な提言を通して説得力を持ち、道徳、宗教、政治をテーマにしてその理論を適用する本書の手法は、鮮やかさすら感じられる、魅力的なフレームワークだ。
本書は、どうやって相手を、そして相手チーム(集団)を理解するかについて考え得られた知見について、実践的な内容を以て提示してくれる。

先に出した3点のうち1.については、まずどのように人はものを捉えるかについてだ。
氏は、心を、理性を司る"乗り手"と直感に例えられる"象"というメタファーを用いて直感と思考の関係を語る。
そして「乗り手の役割は象に使えることだ」として、理性偏重をする合理主義者に反対するのだ。
著者はそれを実践するかのように、理論を一方展開するのではなく具体例を多く挙げながら要点を繰り返して伝えようとする。
その記述はとても読みやすく、その内容は読み手の"象"に訴えかけやすい。

2.についての解説について、実際に氏が唱える6つの道徳基盤を用いたアメリカの保守主義とリベラルの観察を通してその有効性が説得される。
何の知識も無い僕にとっては見事にジグソーパズルのように当てはまるように感じ、その眼鏡を通して見れば明瞭な分析が得られると思ってしまうほど。
ところで、本書に政治の話が多く語られているのは、著者自身にそうした動機があったからだ。
著者自身リベラルであることを語り、民主党が共和党に勝てるよう、道徳心理学の研究をうまく活用してリベラルの勝利に貢献したいと願っている。
その過程で得た知見が本書内で生かされているのであり、アメリカの政治観の一端を知るのにはとても役立つと思われる。

丁度、著者の知見と絡めてトランプ氏および現在のアメリカ選挙のことを言及している記事があったので添付しておく。
「民主主義のバグ」を使ったトランプの躍進──“感情”に働きかけるポピュリズムのリスク

3.については、ここまで語られてきた道徳の"資本"の性質と結びつけているが故の"盲目性"に警告の鐘を鳴らす。
決して道徳一元論者になってはならず、また必ずある一つの道徳マトリックスに忠実にあるべきというような原理主義者になってはなってはいけない。
二元論に陥ることなく、価値は多元的であるということを踏まえ、どのように"私たちのこと"を理解した方が良いか助言してくれる。


西洋文化のもつ個人主義的な見解を展開するのではなく、インドで得た向社会的な見解が反映されていることが、僕の象との親和性を高めているように感じる。
人は程度こそ違えど、何らかの集団に帰属しているのは確かにそうだ。
家族であり企業であり何らかのチームであり指示する政党であり。
(ただし、そうした網の目の強度が弱いものになっているように感じたりもする)

相手と相手の帰属する集団とを理解する手助けとして、氏が提示する考えは手助けになり得ると僕は思う。


ということで、明日から月曜日。
連休中働いていた人もそうでない人も、改めて頑張って参りましょう。

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