若きウェルテルの悩み

"ぼくはこの飾り紐に千度も接吻をする。そうして一息ごとに、あの幸福な二度と帰らぬ幾度かがぼくにもたらしてくれたよろこびの追憶を吸い込むのだ。"


若きウェルテルの悩み (新潮文庫)


著・ゲーテ  翻訳・高橋 義孝


名前ばかり知っていて一向に内容を知る機会も読む機会も無かった本作。

最初の方はひたすら片思いの描写が続き、瞼が重く中断を幾度も生じるほど、飽き飽きするような話が続いていた。
物語を季節で例えてみると、恋の出会いと喜びが芽吹く春を過ごし、その時間が黄金に煌めく夏を味わったその心中は、後半に向かうに連れて枯れ始める秋、そして悲劇の冬へと向かう。
読者の僕としては、夏ぐらいまでは瞼が重いのだが、皮肉なことに、中盤から秋へと衣替えしてゆく主人公の心境の変化にぐいぐいと引き込まれていくのである。これがゲーテの技か。

お話としては既に多くの人が知っている通りであって、ともすればストーカー男の告白、プラトニックな痛み、不器用な男の生涯、などの様相を呈しているのだけども、その表層の皮をむけば全く違った身がそこに詰まっている。
つまり、主人公であるウェルテルの心の機微そして思考に引きこまれ、そしてそれが哀しいまでに情熱的であり一途であり純粋であることが描かれていて、その純粋性が故に苦しみ苛まれ破滅していく様に、いつのまにか心を奪われページの先が気になる程だった。

きっかけとしてフランケンシュタインを読んだことでこの本を読みたくなったのだけど、ウェルテルをあの人造人間に重ねているのだと思うと、改めてあの話の悲劇性を味わっており、書簡形式小説という共通性も納得。

この若きウェルテルの悩みはゲーテ自身の実体験から出来たもので、片思いの女性が婚約者であったことと、友人の自殺という点が、この本の原点らしく、そうした自身のショックを小説という創作活動によって自分を救ったというのが、訳者の紹介にある。
続けて訳者が紹介しているが、ゲーテは後年こういったそうだ。

「「ウェルテル」は厭世という病的状態から生まれたものであり、あの時代の病的風潮であったセンティメンタリズムを文学的に記録した小説である」

実際、この本が出版されてベストセラーになり、当時実際に自殺が流行ったらしい。。
ウェルテルのように苦悩し悲しみに身を寄せる人が、いかにこの本に共感したかを窺い知れるし、ウェルテルほど幾千の接吻を影絵の肖像画(!?)にすることはなくても、恋と苦悩をする人の共感は今でも引き出せるものだと思える。

もう一度読むと、前半の味わいもまた別のものになるんだろうな。

長年愛される本であることに納得する読書ですた。

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