小暮写眞館

"笑って笑って、笑いの尾を引く二つの帚星のように、師走の晴れた空の下を突っ走った"


小暮写眞館(上) (講談社文庫)
小暮写眞館(下) (講談社文庫)


著:宮部みゆき
(上下巻)

人には休息が必要だ。
日々の出来事に追われていると、心が疲弊してついつい余裕を失ってしまう。
そんな時、萎んだ心にどうやって養分を与えるだろうか。
たっぷり睡眠を取る。美味しい食事、美味しいお酒を楽しむ。友人たちと遊ぶ。好きな音楽や本、映画、その他趣味に興じる。
選択肢は人によって様々だし、その時の気分によって選択するものも変わってくるだろう。

小説を読むことは選択肢の一つだ。
良い小説は良い気分転換にもなるし、心を豊かにする力がある。

最近小説読んでないなぁ。
と思ったら黄色信号。心はきっと、物語を求めている。

斯く言う俺自身そんな心持ちであった時、手にとった本がこの本だった。

都立高に通う主人公の英一とその家族は、最近父親である秀夫が見つけた珍しい物件に引っ越した。
その物件にはこんな名前の看板がかかっている。「小暮写眞館」
その名の通り、昔は写真館として地元の人達に愛された場所だったが、家主が他界し売りに出されていたところ秀夫が一目惚れをし、昔ながらの建物をほとんどそのままの姿で住み始めることになる。
しかしこの物件、前の家主であった小暮さんが窓越しに見えることがある...なんて噂があるのだ。
そんな物件だからこそか、英一の下にはある種の話が舞い込むようになる。
それは、いわゆる「心霊写真」
本来、カメラのファインダー越しからは見えないモノが、その写真に写り込んでいる---。
これは、心霊写真という奇妙な現象との出会いから始まる、いくつかの物語の記録である。

あらすじはそんなところ。
タイトルからカメラマンが主人公かな?と思ったのだけれども、ページをめくっていくとそんな予想は彼方へと去っていき、心霊写真を扱うミステリーという予想の斜め上の内容が腕を組んで待っていた。
ムムムム。そうだった。宮部みゆきはミステリーに定評のある作家さんであった。
タイトルと表紙にすっかり騙された! まぁ、いいけど。
そんな事を思いながらも、さすがみゆきさん、どんどん引き込まれてはページをめくっていってしまう。

小説の中で展開されるのは、写真から紐解かれるお話であったり、英一の周りの人々との話であったり、あるいは英一自身と家族のお話であったりする。
心霊写真をアイテムに使った、一見ミステリーではあるものの、そうしたお話の中に流れているのは、共感力を支えとした温かさであったりする。
本文では英一の視点から出来事が展開していくが、英一のみでなく登場人物それぞれがそれぞれの立場で、"温かな距離感"を保っている。

文に目を向ければ、文中ではいわゆる"セリフ"の部分は明確なルールを伴っていない。
セリフや進行する語りや描写の他に、独り言のような、感情の沸き起こりのような、そうした言葉が宙を舞う。
それはある種の環境音かのように文章に織り交ざり、日常感というテンポを作り出している。

内容には触れないでおいて、強いて一言いうとすれば、こういうことだ。



ヒロシが男前過ぎる。



ヒロシって誰やねんというツッコミをかわしつつ、既に正月も終わっておりますが、改めて本年もよろしくお願い致します。

コメント