ソクラテスの弁明 - クリトン

"アテナイ人諸君よ、私はただこういうより外はないのである。(中略) いずれにしても私は、決して私の行動を変えないであろう、たとい幾度死の運命に脅かされるにしても。"

著:プラトン / 翻訳:久保 勉

ソクラテスの紹介についてはwikiに任せる。→ ソクラテス
本書はその弟子プラトンが記した数ある"対話篇"の初期作品。
当時ソフィストと呼ばれる多くの知識人達は、"絶対的真理なんて人それぞれ"と相対主義の下、詭弁が闊歩する風景だった。
知っている風を装い詭弁を用いて多くのソフィスト達は教師となり金銭を受け取る、そんな光景があたりに広がっていた。
そこで否を唱えたのがソクラテス。
「知っていないということを知っている = 無知の知」という姿勢をもって、本当の真理、真実について探求した。
その道の行く末に、政治的な力で死刑にされてしまうのだけど、本書では裁判の場で、アテナイ人に向けて弁明をする姿、そして獄中で、ソクラテスを脱出させようと計る友人クリトンとの対話を描いたもの。

熱い。熱すぎるよソクラテス。

"一番大切なことは単に生きることそのことではなくて、善く生きることである"
"善く生きることと美しく生きることと正しく生きることは同じだ"


そう語るソクラテスは自分の信じた道を突き進む。理性の限りを尽くして突き進む。
知を謙虚に求め、善く生きること。それをアテナイ人達に示そうとした。
本書はもうみごとにその姿を描写しており、ソクラテスが光り輝いている。まぶしい。
一方で、ソクラテスはこうも言っている。

"私に死を課したる諸君よ、私は敢えて諸君に言う、私の死後直ちに、諸君が私に課したる死刑より、ゼウスにかけて、さらに遥かに重き罰が、諸君の上に来るであろう。"

怖いよ。怖いよソクラテス。
ここに原理主義の影が見えるほどだ。
真実を見つけること。でも他人は"ひとそれぞれ"なんて詭弁を吹きながら、さも真実を知っているかの如く、他人にものを教えて金銭を受け取っている者もあれば、人を裁こうとすらしている者もいる。
お前らは何も知らない、その事すら知ろうとしないというのに!
そしてソクラテスは、ソクラテスが教えて来た若者達がきっとお前らの前に出現すると言い、この予言を終える。
(もっとも、アテナイ人全てを憎んだというのではなく、彼を有罪と断じる人へのメッセージだけど。)

そして彼はこう言ってその場を終えた。

"しかしもう去るべき時が来た。私は死ぬために、諸君は生きながらえるために。もっとも我ら両者のうちのいずれがいっそう良き運命に出会うか、それは神より外に誰も知る者がいない。"

本当の正義のために闘うのなら、私人として生活すべきであり公人として活動するべからずというソクラテス。
徹底した私人として自分の哲学に生きた先に迎えた終焉で、彼はどうあったか。
雄弁なるソクラテス劇場が、幕を開ける。
(どうもこういった本を読むと、その語調に影響されてしまう。。)

コメント