スリー・カップス・オブ・ティー

スリー・カップス・オブ・ティー

***追記**********************************************
ネタバレ多数のため、まずは見て!!
(それでは本の紹介になっていないけど、是非見て欲しい)
*****************************************************

グレッグ・モーテンソン。
彼は元軍隊に所属した経験をもち、看護師として働く男だ。
幼い頃に山に魅せられてからは、山々を登山することが、彼の人生だった。
看護師の仕事も、山に働くためのお金をためて、お金がたまったら登りに行く、ということを繰り返すための椅子でしかない。
そんなある日、友人から"K2"への登山に誘われる。
パキスタンのカラコルム山脈。世界で2番目に高い山、通称"K2"は、世界で最も登山が厳しい山とも言われている。
このK2登山に失敗したグレッグは、下山途中、道を誤りまったく知らない村、コルフェ村に訪れる。
厳しい環境で生活するコルフェ村人々。しかし彼らはグレッグを温かく迎え入れる。
そこで見た光景。パキスタン政府がここで暮らす人のためには何もしてくれない。
村は必要な環境を整えることができないのだ。
その一つに。
子供達は霜のおりた地べたに輪になって座り、手に持った枝で地面に字を書きつけている。
そう、学校がないのだ。政府が何もしてくれないので、隣の村とあわせて1人の先生をお願いしているが、それも週3日に限られる。
それでも勉強したいと願う子供達は、それぞれが自習し、先生のいない広場で静かに座って自習している。
グレッグはこの光景を目の当たりにして、決心してこう言う。
「僕が学校を建てます。」
これは今も続くグレッグ・モーテンソンの挑戦を記した真実の物語。

久しぶりに読み応えのある本だった。
世界には偉大な男がいる。そして間違いなく彼もその1人。

"岩だらけの山道を越えてくる間に仏教は忘れ去られた。かわりに、自分をとりまく厳格な環境に見合った厳格な宗教、イスラム教シーア派を信じるようになった。"
厳格な環境を通り抜けた先に広がる未見の地。そして衝撃的な場面。
妹クリスタの弔いとして、自分の進むべき道を見出す目的として、K2登山に参加した彼を待っていた思いもよらない光景。
"地球の反対側には、冷たい地面にひざまずき泥と棒を筆記用具がわりに勉強している子どもたちがいる。そんな彼らに関心を持ってもらうためには、そしてお金を集めるためには、一体どんな道具を使えばいいんだろう。"
コルフェ村から帰って来た彼は、苦悩の連続。
資金作りのため、アパートは引き払い、タイプライターを打ち、パソコンを覚え、580通の手紙を著名人達へ送った。
友人経由でローカルな記事になったりもした。
全てはコルフェ村に学校を建てるため。そのための資金作りをどうするか。
そして後に出会う"ジャン・ヘルニ"。この人がまたかっこいいのだ。本書を見れば分かる!

(気に留まるシーンやセリフを紹介していきたい。でもそれだと超長文になってしまう、、!)

グレッグが語学に優れ、軍隊に所属していた経験が役に立っていることは読めば知る事ができる。
でもそれだけじゃない。彼の優しさや誠実さ、賢さや情熱に魅せられる。
そしてその純粋さに、みんな尊敬の意を抱き、協力を惜しまない。
時には拉致監禁されたり、時には宗教指導者から批判されたり、様々な困難が彼を襲う。
しかしグレッグの仲間達の協力や時には運も味方につけて乗り越えて行くシーンを見ていると、本当にノンフィクションなのか!?と思ってしまうほど、波瀾万丈に満ちている。

そして本書の大きな特徴の一つとして、パキスタンの山岳に住む人々の生活を知る事ができる点がある。
"この地で本当に危険なのは道路なのだ。"
厳しい環境下で暮らす人々。インドとの緊張状態の末におきた "カルギル紛争"の悲劇。
そしてイスラム教(原理主義) と聞くと、タリバン、オサマ・ビンラディン、などを連想する人もいるかもしれないが、本書の中であの9・11事件も彼の軌跡に残されている。その時、現地の人々がどう考えていたか、またどんな状況であったかも、知る事が出来る。
国境付近の山岳地帯にタリバンが潜んでいるとして実行されたアメリカの空爆。
そしてその結果、何が起こったか。

彼はペンタゴンで訴える。
"付帯的損害などと称して、死者の数さえ調べようとしない。被害者を無視するのは、その存在自体を否定することです。イスラム世界において、これほど屈辱的なことはない。決して許してもらえないでしょう。"

ある時は記事で訴える。
"善良な市民がいて、テロリストがいます。でもそのちがいは、教育があるかどうかだけなんです。"


そして彼の活動の場はパキスタンからアフガニスタンへと移っていく。


グレッグの心からの行動に対して、現地の人々は心から応えるのだが、読んでいて、俺ってすごい邪念ばっかだな!と思わずにはいられない。
俺は心からの投げかけに、心から応えることができているのだろうか。自分自身にも、相手にも。


"バルティ族の人間と初めていっしょにお茶を飲むとき。その人はまだよそ者だ。2杯目のお茶を飲む。尊敬すべき客人となる。3杯目のお茶をわかちあう。そうすれば家族の一員となる。家族のためには我々はどんなことでもする。命だって捨てる。グレッグ先生、3杯のお茶をわかちあうまで、じっくり時間をかけることだ。"

そう語ってグレッグを導いてくれる、コルフェ村の村長ハジ・アリをはじめとし、パキスタンの人々との濃密なエピソード達が、本書をとても暖かいものに仕上げている。
そう、まるでお茶をわかちあい、じっくりと心と体を温めるように。


NGOである中央アジア協会(CAI)の代表を務めるグレッグの活動は、WEBサイトから知る事もできる。
本を読み終わった後、本に掲載されている写真をはじめwebの写真を見ると、写真のもつ力をありありと感じる。
なぜなら、この写真があるのは、彼がその手で築き上げて来たものの上に成り立っている事が分かるからだ。

2010年も終わろうとしている中、良い本を発見できた。
師走で忙しく寒さも厳しくなる時期に、立ち止まって是非とも読んでもらいたい一冊!

コメント