マノン・レスコー

"君といっしょに不幸なことこそ、ぼくには願っても無い運命なんだ"

著:アベ・プレヴォ

集英社版 世界文学全集第9巻より。

貴族の家庭に生まれ、正しい教養を施され、知性と徳を備える少年シュヴァリエ。
ある日パリ北方の町アミンから家へ帰る帰路の途中、女性の集団をみかけた。
それは修道院へ向う一行であったが、その中の一人にシュヴァリエは一目惚れしてしまう。
その女の名前はマノン・レスコー。
これはシュヴァリエとマノン、そして彼らの周りの人々との、狂おしいほど盲目的な愛のお話。

話は書き手がシュヴァリエから聞いた回想話として始まる。
才能と教養と徳と地位を持った少年シュヴァリエ。
頭脳明晰、容姿端麗、名声も得ることがあれば勇敢も兼ね備え、器用さも持ち合わせる非の打ち所がない人物。
彼の周りにいるのは親友ティベルシュはじめ、つっこみたくなるほど友情を体現しようとする人々。
そしてタイトルにもなっている女性、マノン・レスコー。
絶世の美女でシュヴァリアに言わせれば地上の全人類が彼女の前にひれ伏すというオーラを持つ人物。
だがしかし贅沢と快楽の亡者で、物語では例えるなら台風のように、シュヴァリアの運命を掻き乱す。
こいつがエグイ。歩くアリ地獄。
このマノンに出会ったシュヴァリアが狂ったように人生の面舵をまわす。まわしてまわしてそして壊す。
よくある、献身的な愛の美徳を感じる、そんな綺麗なストーリーではない。
親を仇にし友人には金を無心し賭場でイカサマを働き挙げ句は人を殺してしまう。
愛に溺れに溺れて7転80倒ぐらいするシュヴァリア。
しかしもちろん教養ある彼は愚かなほど真っ直ぐで、策略を張り巡らせて人を貶めたり強奪したりするのではない。
純粋な心の持ち主で、それが故に徳もありそれに応えてくれる友もいるのだが、全ては愛のためマノンのため、それらは全て二の次になってしまう。
彼の人生の理性でもあるディベルシュの説得が幾度無視されたことか。
しかしそれを上回る友情を以てしてシュヴァリエと接するのは驚嘆する。
そしてそれはディベルシュだけではない。
眩しすぎて直視できないぐらいの友情が描かれているのも、特徴だなぁ。

そんな友情をとっても、マノンへの愛の前には霞んでしまうシュヴァリアの人生。
彼が持っていたもの全てを捨て、全身全霊でマノンへ注ぐ彼の運命は"恋は盲目"の一言では片付けられないほど、波瀾万丈である。
オイオイオイとツッコミながら見るのもよし、ハンカチ片手にその姿に胸を打たれるのもよし、「ねーよ」と一蹴するもよし。
男と女で感想はまったく違うだろうこの作品。
三島由紀夫で心理描写作品に慣れたのか、けっこう面白かった。

おすすめ度:78点

ファム・ファタール(男たちを破滅させる女)を描いた文学作品としては最初のものといわれ、繊細な心理描写からロマン主義文学の走りともされる。
@wiki
だって。メモメモ。
あれだな、マノンみたいな女性を隠語で、「○○ってFF(ファム・ファタール)だよな」とか、「FF系」とか、「FF臭がする」とか使えるな。
これは流行る。俺の中で。

コメント