モダンタイムス

"勇気はあるか?"

モダンタイムス (Morning NOVELS)

著・伊坂幸太郎

小説 "魔王" に続く本作。
読み始めは少し、身震いを覚える感覚だった。
だって、爪を剥がされそうになる場面から始まるのだから。
想像しただけでも、身震いしてしまう。

物語は、主人公・渡辺拓海と髭の男との尋問シーンから始まる。
髭の男は、拓海の妻・佳代子が、夫の浮気を疑い放った拷問請負人である。
なかなか衝撃的で、痛烈な始まりだった。読みすすめる勇気はあるのか、と問われているように錯覚してしまう。
しかも、拷問の場面は始まりだけではなく、数々出てくるので参ってしまう。
爪をはがされそう、というだけで、いや正確にいえばその状況を想像しただけで恐怖を感じるのだから、想像を与える小説というのは一種の凶器になるのか、とそんなことを思いながら読んでいた。
まあ拷問がテーマの話ではないんだけどね。
社会というシステムのお話です。
これは、いわゆる "運命" とも意味とれるものかもしれないけれど、それはロマンチックな表現にすぎないのかもしれない。
世の中は、結果的にはそういった、"仕組み"の上で動いているのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

物語の中で、一つ一つ真実を知っていく拓海が、物語の結末で選択したもの。
あるいは、拓海の先輩、五反田が選択したもの。
もしくは、政治家・永嶋が選択したもの。

仕事をやるのではない。役割を果たすのではない。
自分が届く範囲の、自分が出来る事をやる。

手塚聡は、
"理解してくれる読者が一人いれば、それで充分なところはあるんです。"

井坂幸太郎は、
"小説で世界なんて変えられねえ。届くかもしれねえ。どこかの誰か、一人。"

という。
大きな世界を考えてしまうと分からない。でも自分のまわりの、自分の世界では何かが出来る。
きっと、そうだよね。

作中の、好きな言葉をいくつか。
"小説はな、一人一人の人間の体に沁みていくだけだ。" "ただ、沁みて、溶ける。"
"人は知らないものにぶつかった時、まず何をするか? 検索するんだよ。"

検索か。なるほどその通りだと思う。作品の出発点も、ここらへんにあるのかなぁ、とふと思う。

みなさん、伊坂さんの最新本がでてますよー。

コメント