へこたれない

"立ち上がり、歩こう"

UNBOWEDへこたれない ~ワンガリ・マータイ自伝

著・ワンガリ・マータイ
訳・小池百合子

ケニアがまだイギリスの植民地であった1940年4月1日に、ケニアの中央高原地帯にあるイヒデという村で彼女は生まれた。
青々とした木々が生い茂る肥沃な大地で、定期的に雨が降る土地で飢えといったものはほとんど耳にしなかった。
そんなケニアで起こった、植民地支配、独立運動、独裁政治など、数々のエピソードを織り成し彼女がノーベル平和賞受賞という偉業を成し遂げるまでの、険しくも信念に満ちた道を振り返る、ワンガリ・マータイの自伝。

なんというパワフル人生か!

イギリスの植民地であったケニアは、部族という極小国家を幾つも抱えるアフリカという大地で、他に漏れずヨーロッパ列強国の線引きにより強引にも一つの国に仕立て上げられる。部族間の衝突や偏見を抱えながらも、ヨーロッパから来た宣教師たちからキリスト教の教えを広めたことで、これが改宗の他に、読み書きを教えるという教育の基礎にもなった。
また、貨幣経済の導入による税金の徴収、労働の創出や、一方で第一次世界大戦ともなると多くのアフリカ人達が徴兵されたり肉体労働者として働かせられた。

そんな中、最初に生まれた女の子である彼女はケニア家庭において他もそうであるように、「ふたり目のお母さん」のような役割を果たし、彼女は常に母親と行動を共にし、ケニア女性の基礎を築き上げて行く。母親をはじめ両親から、子供が成長するための環境の配慮を受け、教訓を教えられ、家族から多くの愛情を受けて育った。
母親の尊厳と愛情ある決断から、教育を受ける事もできるようになり、さらには、アメリカのケネディ・エアリフト・プログラムによってアメリカの大学に留学するまでになる。

アメリカは彼女を変えた。彼女自身がそう語る様に、アメリカで濃密な学びを得て帰国する彼女。
その頃、ケニアでは自由を求めたマウマウ団の反乱の起こりから年を重ね、遂にジョモ・ケニヤッタを初代大統領とし、ケニアは独立することになる。
一方で彼女は帰国後、部族の壁、性の壁にぶち当たる事になってしまう。
これを皮切りに、彼女の長い自由への闘争や環境への取り組み、そして政府との戦いが次々と起こるのだ。

所属団体への壊滅的な打撃、良きアフリカ女性であること、人生が振り出しに戻ってしまうような出来事、独裁政治との闘い。
それだけじゃない。
多くの苦闘と困難と敗北、投獄と暴力と屈辱。
しかし彼女は決意とねばり強さと希望を経て、勝利を手にする。
その内の一つには、独裁政治から民主主義を取り戻したことも含まれている。

彼女の強さは一体どこから生まれてくるのだろう。
耐え難きを耐え忍び難きを忍ぶかの如く。
強さとは相手を圧倒することではなく、どんなに打ちのめされようとも決して折れることなく立ち上がり、進んで行くことなのか。
それは意志という矛を右手に、ねばり強さという盾を右手に行くかの如く、彼女は自分自身の経験を糧に、ますます強くなっていくかのようだ。
彼女はその強さについて、時々語ってくれてもいる。

ケニアにはサファリのイメージしか持っていなかった俺にとって、この本を見てケニアという国を初めて知った。
そして、ワンガリが経験した信じられない様な、当時の政治についても。
一部の権力者の利益追求のために、国民は騙されメディアはコントロールされ、ワンガリの様に邪魔なものは排除にかかる。
独裁政治の持つその暴力性は脅威だ。ケニアはワンガリをはじめとして当時の政権のやり方に異を唱える主導者がいたことで、国が衰弱しきっていくことを止めることができたけど、仮に立ち上がる人がいなかったとしたら、人々は希望を持つことすら諦め、ただ嘆くか不満を募らせ互いを傷つけ合うだけになってしまうのかもしれない。
そしてこの理解なき権力者達は土地が死んで行くことを顧みずに、環境破壊を進めて行く。

そういった意味で、ワンガリの功績というのは本当に偉大なものなのだなとこの本を読んで感じる事が出来る。
それと同時に、第一回世界女性会議をはじめとした、女性たちの活動がこの時代から活発であったことを知る事も出来た。
彼女はこういった海外の団体や地元の人々に支えながら、その偉業を成し遂げたのだ。
それはひとえに彼女のもつ人間性の賜物でもあるし、時にそれが世界の大物著名人を動かすに至ったに違いない!
そして"モッタイナイおばさん"としての名前しか知らなかったことを謝りたい!

イチジクの木が象徴するように、文化的な伝統を受け継ぐことの重要さ。
グリーンベルト運動が表すように、木と知を植えるということの偉大な可能性。
そして彼女自身の人生が語るように、ねばり強くあることの大切さ。

読む人にとって、色んなヒントが散らばっている本だと思う。
そしてこの本を読んで、教育、水、宗教というカテゴリーの本を読んで来た流れがあるのが、ピタッとマッチした。
世界は繋がってるね。

ワンガリ・マータイ。彼女が残した言葉は沢山のっているが、いくつかピックアップして以下に。

"教育というものに意味があるとしたら、人を土地から引き離すのではなく、土地に対して多くの敬意をもつように教え込むものであるべきだ。なぜならば、教育を受けた人は、失われつつあるものがわかる立場にあるのだから。"
(ちなみにこれはスリー・カップス・オブ・ティー内で言われてた事に共通することで、女性への教育が持つ重要さの側面を示しているよね。)

"失敗は罪ではないのだ。大切なのは、失敗したときにも、背筋を伸ばして前進し続けるエネルギーと意思を持つ事である"

"これはあなたがたの土地なんですよ。あなたがたのものなのに、あなたがたは大事にしていません。土壌の浸食が起こるままにしていますが、あなたがたにも何かできるはずです。木を植えられるじゃないですか。"

"彼らは知らない、歌うことや踊ることで私たちの気持ちが強くなる事を。それに、誰かを怪我させることもない。"

"木は、土の中で根っこを伸ばすとともに、空高く向って成長する。「何かを望むなら、地に足を着けていなければならない」「どんなに高いところまで行こうと、根を張っているからこそ養分を得られる」"

ノーベル平和賞は伊達じゃない!

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