熱帯


「世界の中心には謎がある」



2018年最後に読み終えたのは、久しぶりに森見さんの小説。
氏の作品といえば、お姉さんを含む黒髪の乙女という憧れや強さや郷愁といった、何か不可侵的存在の権化として毎度登場するように思うのだが、この作品では”鍵"として登場する。

千夜一夜物語から着想を得たらしいこの物語は、その構造もその形態をとっているようだ。
謎の本「熱帯」を巡って展開される物語は、前半では森見氏のコミカルなテイストを含みつつ、後半になるにつれある意味”真面目"になっていく。途中、達磨君がちょこんとそこに現れ、”おっと、森見作品だった”という謎の気持ちが現れるのはご愛嬌だが、物語の核心に近づくにつれ、物語の様相が加速度的に露わになっていく。物語の中に物語を内包し、相互作用によって進行していく様は、メビウスの輪のような展開を見せ、最後に現れるのは、やはり黒髪の乙女である。
(ちなみに一点付け加えれば、作中に黒髪の描写は無かったように思えるが、気にしない。)

メビウスの輪のような展開は、言ってしまえば新鮮なものではないのだけど、その内にあるのは千夜一夜物語への、引いてはシャヘラザードへの夢想であったり、物語とは、そして物語を書くということとは、に関する森見氏の考えが妄想とともに散りばめられていると思える。

それは、「物語ることによって汝みずからを救え」の言葉によく現れている。

ちなみに、古道具屋の芳蓮堂が出てくるが、何か懐かしい気がしたのは氏の小説「きつねのはなし」に出てくるからだ。どんな話だったかはすっかり忘れてしまっているので、ちょっとまた手にとってみたくなった。
物語から物語へ。この繋がりから、森見ワールドはまた一つ拡張された。


今年を振り返ると、ゆっくり小説を読む時間が持てなかったように思う。
来年はそうした時間を作りつつ、このブログの面倒もみたい。

それでは皆さま、良いお年を。

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