"生きていることと、死んでいることとは、もしかしたら同じことかもしれない”
著・宮本 輝
別れた二人の元夫婦の間で交わされる手紙のやり取りが紡ぐ物語。
元夫は離婚を期に人生の転落が始まり、元妻は再婚相手との間に軽度の障害を持つ子供が生まれる。
普通ではない別れ方をした二人の間には、その原因も含めお互いの心の内を共有できないまま、長い月日が経っていた。
そんな折、ひょんなことから手紙のやり取りが始まったことで、二人の過去が顕になっていく。
前半は特に説明口調が多く、読み手への説明として仕方がないと思いつつ、テンポがイマイチ悪い流れだったが、後半からはあっという間に読んでしまえた。
このお話、言ってしまえば昼ドラ設定なのよね。
男の不倫による離婚。離婚後、元妻は再婚したが、自分の身に降り掛かった出来事で元夫を憎む感情が高まりつつも、元夫を忘れられず心のどこかで求めている。
元夫は離婚後、転落人生を歩むことになる。闇金にも手を出し安心できない日々を過ごしている。
それが著者の腕により、まるで精神の旅路を表現しているかのようになっていてびっくり。
書簡形式小説の体を取っていているので、書き手の主観的な視点や考え、感情というのを表現する手段として、読み手にとっては受け入れやすい。
彼、彼女、そして周囲の人々との時間や手紙のやり取りの積み重ねが、まるでばらばらになった壺の破片を丁寧に組み立てながら、これまでとはまるで違う、二人の繋がりというものを再構築していく過程を眺めているかのよう。
他方、命というものが大きなテーマとして語られており、生きていても死んでいても同じなのだと、筆者はモーツァルトの39番シンフォニーにそれを見出し、靖明の体験と令子の祖母にそれを語らせている。あ、靖明というのは元夫であり、令子というのはその靖明と同居している女性。
モーツァルトの39番シンフォニーを聞いてみて、それが感じられる人は羨ましい。全くピンとこなかった。。 僕にはまだ修行が足りないようだ。
ちなみに登場人物の令子はまるで天使さながらの人物。
彼女に出会わなければ、この靖明は破錠していた可能性があり、そうなるとただただ、不倫という一撃で不幸を生産した男と、もしかしたら彼への気持ちを断ち切れないまま晩年を過ごす女という、全く別のシナリオに突入していたかもしれない。そうすると火サスに発展していく香りも出てくる。
それを救済したのは令子だろう。清高の存在も大きいけれど、靖明の人生の方向を変えたという意味で、令子のほうがより影響が大きいと思える。
ということで、自分たちの過去を見つめ直し、そしてこれからそれぞれの道で前を向いて生きていくことを確認し合ったという意味で、とてもしなやかで肯定のあるお話であった。
20年くらい前に読んだ記憶がありますが、年取ったのでもう一度読んでもいいかも。
返信削除お、文学少年。朧げに残っているかもしれない20年前の感想と今とでは、印象が変わりますかねー。
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