オー!ファーザー

"電線で脱出なんてできないし、父親たちを信じちゃいけないんだって分かった"

オー!ファーザー (新潮文庫)

著・伊坂幸太郎

一人の男子高校生に、四人の父親。

父親が四人いるだなんて、ありえない。
誰が本当の父親なのか、なぜ母親が四人の男と関係をもってたのか、しかもなんでみんな一緒に生活しているのか。とにかく苦悩するだろう。
四人の父親が母親をめぐって、あるいは息子に対して、ドロドロとした感情が書き混ざり入り乱れては、世にも奇妙でおぞましい闇鍋状態な物語が展開されるのかと思いきや、そんなことはない。
だって伊坂作品だもの。
それぞれ個性的な父親は母親と息子への愛情で一致団結しており、普通の家族よりも繋がりの深い、愉快で快活なホームドラマが展開される。

普通の生活が既に普通ではないのだけど、そこに事件というスパイスが加わると、彼らの一致団結っぷりが更に際立つ。
キャラもそれぞれ個性的で、ユニークな日常は伊坂作品らしいもの。
張り巡らされた伏線を回収していく様は毎度のことで、むしろそれに慣れてしまうとネタバレされる前から関連性に気づいてしまったりする不可抗力があったりする。

ちなみに、息子であり主人公である由紀夫は文武両道で妙に達観したスーパー高校生の視点は、たまに鼻につく。

思えば伊坂作品にはユーモアがある一方で、描写が冗長だなぁと思うこともしばしばあって、この作品で言えば高校生の視点があまりにも大人びていたりすると、そのギャップに苦笑することがある。
とは言うものの、伊坂作品の力点は主人公の内面を描くことよりも、物語としての完成度にあるのだから、文句を言うのはお門違いかもしれないなぁ。


このオー!ファーザーは2006年に新聞連載で始めたもので、これを書き終えた後に、自分が得意な要素やパターンを使っている一方で挑戦がないことに疑問を感じ、新しいことへ挑戦するようになったのだと言う。
それがゴールデンスランバーをきっかけとした、伊坂作品の第二期と呼べる始まりなのだ。

そう、久しぶりに読んでみた伊坂作品が異なる色味を持っていたのは第二期の作品群であったのだから当然だったのだ。

そういう意味で、"そうそう、伊坂作品てこんな感じだよな" という一冊だった。

そういえばこれ、映画もあるけど、そっちはどうなんだろう。

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