アリと社会と性科学と

本を2冊読んだので以下に。


"ムシは人のことなどかけらも考えずに生きていますが、人はムシの生き方から様々に教わることが多いように感じるのです。"

働かないアリに意義がある


著・長谷川 英祐

進化生物学者が語る、アリの社会。
まずタイトルだけ読むと、仕事が嫌にでもなったのかと心配されそうな本だ。
ともすれば、"無職であることに意味を見出すためのルサンチマンの発揮"だとか、"働くという行為に批判的なペシミスト達の啓蒙本"とも疑われそうだけどそうではない。
というかそんなひねくれはいない。

(続きはタイトルをぽちり)




社会的な集団を作る性質の意味で、社会性を持つ動物は人間だけではなく、昆虫達もいる。
その社会性昆虫達の中でも、集団の中に不妊の階級を持つことものを真社会性と呼ぶらしい。
これは例えば、ダーウィンの進化論的に考えると、たくさんの子を残した個体が、その個体の子孫に形質を伝えることで進化が行われる、と言われている。
早い話が、子供は親に似る、という事だ。
では昆虫の世界はどうだろう。例えばハチ。
女王バチだけが繁殖を行い、働きバチは繁殖しない。
子供が親に似るのであれば、女王バチから生まれる子はみな女王バチだろう。でもそうじゃない。
現実には繁殖機能を持たない働きバチが沢山いる。
こうした集団の持つ性質のことを、真社会性と呼ぶらしい。

本書ではハチやアリなど、真社会性に目を向け、実体を探ろうとする。
せっせせっせと働くアリ達。でも彼らを気の長い間観察すると、実はぜーんぜん働いていないアリがいることが分かったのだ。
アリの社会にもサボっているやつがいる!?なんか親近感わくなぁ、という話ではなく、実はある仕組みがあったりする。
他にもお馬鹿なアリの存在があったり、過労死というものが存在していたり、コロニーの存続の話があったりと、なかなか人間社会と似通う話があったりする。
なかにはエゲツナイ話があったりして、例えばアリのコロニーに侵入して、女王アリをしとめ、女王アリに成りすます"フリーライダー"がいたり、繁殖の先にある雄の運命の話を目にするとつくづく人間で良かったと思わずにはいられない涙の行く末。
こうして僕はとりあえずは食物連鎖の頂点に立った人間の一人として、そうした憂いを見ることも無くのうのうと自堕落に過ごすのであります。

とまぁとにもかくにも結構システマチックになっている、集団としてのアリやハチ達の、ちょっとした生活の不思議を覗く一冊。

子孫を残すために生殖があり、昆虫達も命がけで取り組む。
でも彼らは何フェチとか、快感とか、そうした性的なものってあるのだろうか。
その点にかけては人間って変態的に進歩してるよね。ジャンルもありすぎて、deepになっていくともはや理解不能。
deepなものは置いておくとしても、人間の性事情に関する研究みたいなものはあるんだろうか?



あるんです。



"男と女がお互いのセクシャル・キューを理解し、認めることで、心の安らぎと、相手への信頼、思いやりが生まれる。そうなったときに初めて、男と女の気持ちが通じ合う事になるのだ。"

性欲の科学


著・オギ・オーガス/サイ・ガダム
訳・坂東智子

性に関する研究は常に抵抗が伴う。
周囲から、地域から、社会から、様々な抵抗や反対に合い、研究の歩を進めるのは難しい。
例えば男女の性的興奮の違いを調べるのに被験者を招きマスターベーションをさせる、あるいは性的嗜好を調査するのに部屋にカメラを忍ばせる。
そんな事をしようものなら、権利擁護団体、倫理団体をはじめとした様々な団体から抗議や圧力や訴訟などが生じる。
つまり性に関する研究データを得るのは非常に難しいのだ。
かつてそうした実験を行い重要な論文を発表してきた先人達は確かにいるが、時が経つにつれ、世間のタブー視は強くなるばかりだ。
だがしかし、革命的なツールが世の中に誕生した。インターネットである。
インターネット上に存在する名言の一つとして"ルール34"があることをご存知だろうか?
「ルール34:人が頭に描けるもの全てに対して、オンラインポルノが存在する」
そう、インターネット上にある情報こそ、性科学における研究データの宝の山なのである。
これは、神経科学者のオギオーガス博士とサイガダム博士がその研究として、4奥の検索ワーズ、65万人の検索履歴、幾多の官能小説ロマンス小説アダルトサイト、掲示板等々を、データマイニングを駆使して分析した性の科学本。

"性的欲望と欲情を生み出す脳のソフトウェアは、どんな仕組みになっているのか?"
神経科学の専門家はこんな疑問を発端に、膨大なデータ量から男女の性について赤裸々にその像を紐解いて行く。
364ページにも渡る紙面をさいて、大真面目にセックスやペニスや巨乳などなど、その他初めてきく用語などが幾重にも登場する。
そうした新しい世界が垣間見える話を聞きつつ日本のHENTAI文化も細かに紹介され、著者の並々ならぬスケベ心もとい研究魂が伺いしれる。けしからん。ページがどんどん進んでしまう。

いくつもある考察の中の一つに、例えばOR回路とAND回路の話がある。これは大体の人が知っているだろうし納得できるところじゃないだろうか。
世の多くの男性は、女性の胸や尻や脚などを見て興奮する。精神的にも性的にもだ。(*精神的、性的に興奮するか、男女の相違に関する研究も本書に紹介がある)
胸だけの写真で興奮する事もあれば、魅力的な足裏の写真があれば興奮する人もいるだろう。(そういう嗜好の方なら。)
これはその男性にとって、女性的魅力が部分でも認められれば、興奮するということだ。これはOR回路に相当する。
しかし女性は男性の身体的特徴だけでは身体が反応しても精神的には必ずしも興奮を覚えない。
強いリーダー的な男であるアルファメールであるか、ロマンスはあるか、経済的な力はあるか、などの諸条件をクリアして、はじめて性的にも反応する。これはAND回路だ。
例えばそれはオンラインポルノの閲覧データでも現れており、男性はセックスシーンを好むが、女性はストーリーを好む、というデータがある。
男性は早撃ちガンマンのようにセックス動画に即反応するが、一方女性達はロマンス小説などをチョイスし、ストーリーを楽しむようだ。

何が自分を、そして相手を盛り上げるのか、それを知っている事に損はないだろう。
例えば俺自身は綺麗な脚線美には注目するし、大きなオッパイは魅力的だと思う。力強い瞳だって好きだ。
かといって部分が全てでは無いし、そこにあるバランス、スタイルが重要で、本書にもそのことについて述べている。
そうした男性のもつ性的ソフトウェアのキューは身体的特徴に反応するのは疑いようがない。
(当然、身体だけ見ている、という事を言っているのではないことを付け足しておかないと、白い目で見られそう、、)
では女性はどうかというと、男性ほど単純ではないようで。
まず女性にはそのソフトウェアに探偵団を擁しており、前述の通り優れた男を得るために諸条件を突きつける。
男を十分に品定めして、自分を満足させてくれる相手を選ぶのだ。

満足するために何を欲するのか。
性的なキュー、セクシャル・キューを、本書では考察していく。
主に欧米の検索ワーズが基になっているものの、どんなワードで検索されているか赤裸裸にされており、色んなワード達に笑うし、同性愛の考察はなるほど不思議なものだし、女性が好むファンフィクション例の一つにある、ハリーポッターのポルノストーリーには苦笑する。

まあ事はそんなに単純ではないし、本書でも著者はそう言っている。
見た目だけで判断する時期は必ず過ぎて行くだろうし、相手にばかり求めることを後悔する日だっていつかは訪れる。
具体的に役に立つ!といった本ではないが、趣味で調べたメモ帳的な、性のデータを集めて眺めて作られた桃色観察記録、な本でしたよ、ってことで。


ああ、なんだって俺はこんな事を書いているんだろう。他にやるべき事はあるのに。。
ぶつぶつ。

ところでさ、さっきつなぎの箇所で書いた「あるんです。」
川平慈英で脳内再生された?

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