終末のフール

「おい」「冗談ですよ」

終末のフール

著・伊坂幸太郎

8つのストーリーから綴る、世界の終末を前にした人々の日々。
息子と死に別れた老夫婦、妹の復讐に燃える兄弟、ボクシングジムに通う少年、などなど、彼らは世界の終わりを知り、どう生きて行くのか。

本屋で本を探していたら、この本が目に飛び込んできた。
伊坂幸太郎きたよー!
テーマは「終末に生きる人の姿」
地球に隕石が衝突し、世界の終末を迎えるという映画でやり尽くされているシチュエーションだが、世界を救うのがテーマではない。
ブルース・ウィルスが隕石に爆弾を仕込もうとしている裏で、人々の日常はどのように流れているのか。
あと3年。
世界が終わるまであと3年と宣告されたとき、人はどうやって暮らすのだろう。
湧いてくる願望を叶えようとする、快楽に浸る、悲しみに明け暮れる、犯罪に走る、信仰心に目覚める、あるいは死んでしまう、、
多くの人は考えが変わり、世界が変わり、秩序が崩れ、混沌とした世に変わるのかもしれない。
俺はどうだろう。
変わらない毎日を過ごしたいと願う一方で、変わりゆく世界の中で自分は変わらずにいられるのだろうか。
普段生きていく中で、「死」は漠然としてあるものだと思う。
「あらゆる生あるものの目指すところは死である」とフロイトは言ったそうだ。
死は生の対極にあるのではなく、その一部にあるのだと三島由紀夫は「金閣寺」で言っていたと覚えている。
これらの言葉を見ても、実感するものはなく、また日々の中で死を意識して生活している人は多くはいないはずだ。
実感としての死。
それは曖昧模糊とした生の輪郭をハッキリさせてくれるような、白と黒の関係にも似たものかもしれない。
巻末の評においても、同じ事が触れられている。

そんな視点もある本作でも、相変わらず伊坂ワールドが展開されている。
登場人物の伊坂リンクはもちろん、生活の中で使う何気ない言葉のやりとりが、妙に印象に残るのもこの人の魅力だ。
各人の言葉や行動、そしてリズム。リズムとリズムが重なる瞬間。そうした伊坂作品に登場する人物達に、親しみを持つ。
伊坂作品好きだなぁ俺。

もし世界が終わりを迎えることを知ったら、あなたは何をしますか?

おすすめ度:80点

俺は愛する人と一緒にいたいなぁ。
・・・それは無理だな。
「おい」「冗談ですよ」<(心の声)

追記:
「死は生の対極としてではなく、その一部として存在している」の一節、三島由紀夫の金閣寺ではなかった。。
蛍・納屋を焼く、その他の短編集に収録されている、"蛍"での一節だった。つまり村上春樹の言葉でした。

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