アドルフ

"人間の内部には完全な統一などありはしないし、すみからすみまで誠意だけとか悪意だけとかいった人物は一人もいないのである。"

著・バンジャマン・コンスタン

集英社版 世界文学全集第9巻より。

あるところにアドルフという名の青年がいた。
良家に生まれ、大学を優秀な成績で卒業し、前途洋々であった。
ある日、身内で遠縁にある伯爵の家に招かれるのだが、そこにいた伯爵の恋人、エレノールと出会う事になる。
エレノールはもともと名門の家に生まれただが、不幸な事件が重なり伯爵と一緒になる。
伯爵の危機を献身的にサポートしてきたエレノールは、美しさと気品を持つ器量ある女性で、また伯爵との絆も深い。
そんなエレノールに惹かれたアドルフは、なんとか彼女を誘おうとするが、、、

これは若気の至りが発端なのか、、
付き合わなければ死ぬ!とまで言い放つ、突っ走る男アドルフなのだが、徐々にその性格が浮き彫りになって行く。
死ぬとまで言っておいて、エレノールと付き合いしばらくすれば彼女の行動が次第に重荷になっていく。
自然に言い合いも増え、二人の間は急速に冷めて行くのだが、エレノールは本来献身的かつ情熱的な女性であるから、一度火のついたアドルフへの想いが冷める事は無い。
それがアドルフルの良心や情熱心を動かす事もあれば、父親の事や将来の事、己を振り返ると早く別れようと心動く事もある。
場面場面で揺れ動く心は振り子のように、往来する。
まさにこれは、冷静と情熱のアドルフを綴った物語なのだ。

しかしエレノールが束縛魔であるのが怖いが、一貫して献身を貫いている姿に対して、アドルフはいかにも自分勝手に立ち振る舞う。
ついには最悪の場面を迎えるのだが、それがまたこの男のブレっぷりを強調している。
なんていい加減な男なんだ、というのが女性読者の大半なんだろうなぁ。
でもアドルフが自分の心の移り変わりに従順すぎて、いかに苦しんだか!

自分相手周り社会将来人生、一つだけしか無いなんて事はない。生きるっていろんな事が混ざってる。
それに悩み、一方で冷静に、一方で情熱的になる心の移りやすさ。
そしてそのことに振り回されるアドルフの性格が、どんな展開を迎えるのか。

おすすめ度:80点

心の移り変わりを描く心理描写作品。
日本人養成講座@三島由起夫の中で紹介されていたので読んでみた本作。
「性格について如実に知りたかったら、アドルフを読め。」
いかに心が流動的であるか。
それを方向付けるのは意思、なんだろうな。
潔くありたいけど、なかなかそうならないよね。。
俺もアドルフ・チルドレンなのか、、、

作者は最後にこう締めくくっています。
"周囲の状況などというものは大した者ではなく、性格がすべてなのです。外側にある人物や人間といくら縁を切っても無駄な話で、自分自身と縁を切る事はできますまい。(中略)場所を変えたからといって自分が改まるわけでもありません"
おっしゃる通りです。
昔の自分に言い聞かせてやりたいです。言っても絶対聞かないでしょうが。

自分自身と縁は切れません。だって人間だもの。みつお。

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